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飛騨山椒の山椒七味

飛騨山椒

この七味は身内でいちばん人気高い。何といっても香り高い。さんしょの香り高い。お高い上品な香り高さというより、なんだかのびのびとした、すがすがしー感じ。う~んこんな形容じゃソムリエはムリえ?…じゃなくて、さんしょのアク味がすっかり抜けて、良い香りの成分だけが、温度や湿度の後押しで立ち上るのだ。汁物にぴったり。と、焼き鳥みたいにアツアツの肉系も可と思う。

説明加えると、アク味とは、山椒が備えるあの舌をマヒさせるような成分、これが残っていると、使いすぎたときせっかくの七味全体も台無しになるもんだが、それがない。京東山の七味家も山椒含有率高めだが、あそこは上品系で、山椒のアク味は、ピリッと系細挽き系唐辛子と合わせてあるので、使う人は辛くし過ぎないよう自然と抑制働かせることで、同時におさめる流儀と思うが、こっちのほうは甘い系そんなに辛くないしかも粗挽き系唐辛子と合わせてるのに山椒のアク味が出ない。辛さリミッターないからごんごん使う。でもアク味が出てこないおもしろさがあるのだ。

よく行く町田の雑貨屋で買ったのだが気軽にごしごし使っちゃうものだからほんの2ヶ月で2缶消費。空いた缶は我がムスコ8才のオリジナル七味入れになってる。七味の味わいがわかる男になれ、と辛さ段階調整、馴化訓練中。…さておきこの山椒七味、製造元は有限会社飛騨山椒創業昭和五十年。へぇけっこう新しい会社なのでとちょこっと頭の隅にメモってたんだが、これがその後ちょっとした発見につながっていった。

実は、これとはまったく別の脈絡があった。向笠千恵子さんの『日本人が食べたいほんもの』で紹介されていた飛騨の粉山椒に興味湧いてしまっていて、作り手・神崎義一さんにつながる消息でもと1月、シゴトで京都に行ったとき、老舗七味家本舗を訪ねたのだ。本によると清水寺参道の七味で有名な老舗主人思しきに山椒の産を尋ねたところ「飛騨の山の中」との情報をきっかけに生産者神埼さんにたどり着いていくのだが、こりやきっと七味屋のことだし、行けば何かわかるかな。というのも、向笠さんの本では神崎さんご本人以外、実名が伏せられているので、薀蓄素養を感じさせる名文とおいしそうなリズム感で、いてもたってもいられなくなる。

するとあっさり、七味家に「高原山椒」という商品がところ狭し陳列されているではないか。ちょと拍子抜けだったが、これがきっと向笠さんオススメの山椒なんだと確信。でもアレ?本に書いてあったんと容器が違うな~と訝りつつ、お土産、帰宅して本読み返す。「緑の地色に“山椒粉”と黒くあり、木の芽と実と高山が描かれている」とある。ん?あれあれ?この感じウチで使ってるヤツ、と見ると雰囲気近いが木の芽と実と高山は描かれてない。そうだコレ山椒じゃなくて七味。っちゅうことはそっか、買った店に並んでたアレのことだと店に行くと、ありました山椒粉。製造は同じ飛騨山椒!すばりのデザインこれが神崎さんの山椒だ…ということで、我が家お気に入りの香り高き山椒七味が神崎さん作であることがほぼ特定されたのだった。

さて山椒七味。七味だが材料は六味。赤唐辛子、胡麻、山椒粉、陳皮、麻の実、糸青海苔

とにかく山椒の香りがぴかいち。青海苔がふんだんに入ってるのも特長で、あまり辛くないから汁物なんか知らず真っ赤になっちゃう。けどおいしい。おいしい。しかも三大七味に比べれば、お安い!
しかも向笠さんによれば……

「晴天の日に摘むのが香りを落とさない秘訣で、梅雨明けの今だと積みたてをすぐ干せて好都合、ござに広げて陰干しを半日から一日。この一手間が品質を高めるそうで、さらに三日間天日干しすると実が三法に弾け、黒い種が現れる。これをふるって果皮だけにし、石臼でどしんどしんと粉に搗き、余分な殻を唐箕でふり分ける作業をざっと十回ほど繰り返すと、ようやく山椒粉のでき上がりとなる」
「きびしい気候が山椒を鍛えるらしく、辛味のサンショオールや香りのオイゲノールなどの成分が濃い」



……そうである。なんと手間のかかること。我が家の人気のヒミツはオイゲノールであったのか!よかったよかった。後日譚。岐阜県が取り組んでいる「飛騨美濃の伝統野菜」に高原山椒(たかはらさんしょう)という品種を発見。これ、まんま七味家で売ってる名前じゃんと気づき、さらに……

「主に高山市(旧上宝村)で栽培されています。この地域の山椒栽培の歴史は古く、江戸時代後期頃の飛騨の産物を調査した斐太後風土記には、上宝3箇村が山椒の産地として記載されています。また、江戸時代に飛騨郡代が将軍に山椒を献上した記録も残っています。一般的な山椒(アサクラサンショウ、ブドウサンショウ)と比べ、実が小ぶりで深い緑色をしています。大変香りが良く、長期保存が可能であり、品質の高さが評価されています」



……と。これ、まんま神崎さんの山椒のことじゃん。
かくてこの山椒七味は飛騨美濃伝統野菜であるとの傍証も加わったのだった。

向笠千恵子さんはある取り組みでご一緒させていただいたことがある。チャーミングで、聞き手スキルやわらかい分析力高い。そして何より食への見識高い。何より文章格調高い。作り手への愛情あふれるすばらしい先輩です。

日本人が食べたいほんもの―志の「食」職人たち日本人が食べたいほんもの―志の「食」職人たち
(2001/12)
向笠 千恵子松村 映三

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